”ザルティア革命”

投稿日:2015年7月3日|カテゴリ:医療情報

ここに書いた学術的記載はすでに学会発表されて公開されたものです。もちろん著者の研究ではなく、多くの研究者たちの努力によって得られた貴重な情報を、著者の視点で咀嚼して、一般の方にも理解できるようにアレンジしたものですから、当院に無断で転載、転用することは禁止いたします。

⭕️PDE5阻害薬とアンチエイジング効果

PDE5阻害薬、って、ご存知ですか?バイアグラとかシアリスとかいえばおわかりになるでしょうか。そのPDE5阻害薬が、いまアンチエイジングの特効薬として脚光を浴びてます。
去年5月に日本新薬(株)から前立腺肥大症治療薬のザルティアという薬が発売されて、前立腺肥大症の治療目的で健康保険で処方できるようになりました。当院でも多くの患者様に処方させていただき、好評をいただいています。実は私も毎日飲んで、その効果と安全性を身を以て実証しています。
このザルティア錠の有効成分がタダラフィルといって、シアリスと同じですが、ザルティアは前立腺肥大症の治療が目的ですから5mgしか飲みませんから、EDの治療効果はあまり期待できません。しかし、近年PDE5阻害剤には毎日飲むことによって前立腺肥大症だけではなく、膀胱血流量を増加して組織を修復する作用や、血管内皮細胞保護作用、テストステロン活性化作用、酸化ストレス改善作用、さらには長寿遺伝子のSIRT1を活性化作用があると言われ始め、アンチエイジング効果や、ED予防、心筋梗塞予防、動脈硬化予防に有効ではないかと、脚光をあびるようになりました。現に内科領域では肺動脈高血圧症などの治療薬として転用され始めています。

バイアグラが発売された直後、私は北里大学病院でED外来の立ち上げを命ぜられて、毎週相模原に通っていました。そこで、バイアグラには陰茎流入動脈の促進作用があるのではないかとインプレッションを持って、F社の学術に研究助成を依頼しましたが、当時、バイアグラの作用機序は、流出静脈のオープンチャンネルを阻害するだけで、流入動脈には関与しない、世界的な常識だ、と、そっけなく断られてしまいました。しかし、同じ時期に、世界中で私と同じ考えを持った学者がいたのでしょう。あきらめずにPDE5阻害薬の血流促進効果を証明したのでしょう。嬉しくもあり、悔しくもあります。

⭕️ザルティア錠をお勧めしたい患者様

前立腺肥大症の中でも、比較的年齢が若く、40代後半から70代前半にかけての比較的若い方にザルティアはよく効くと思います。つまり、前立腺があまり大きすぎず、前立腺肥大症とともに過活動膀胱の症状を合併しているような方によく効くと思います(下図)。ザルティア錠には、従来の前立腺肥大症治療薬(α1ブロッカー)と同じく前立腺括約筋を緩めて尿道抵抗を下げる作用とともに、膀胱壁の不随意な収縮や尿意刺激がコントロールしやすくするなど、過活動膀胱を改善する作用もあわせ持っているからです。
ザルティア患者選択

2000年代に入ったあたりから、LUTS(下部尿路症状)という概念が導入され、疾病単位の縦割りの考え方から、症状を二次元の空間に分布させて、患者様個人個人の状態をより細かく把握しようとするようになりました。ですから病名が異なる疾病でもオーバーラップする領域を治療ターゲットにすることが可能になってきたこともザルティア錠の登場を後押ししたと言えます。
LUTS

⭕️PDE5阻害剤の作用

①平滑筋弛緩作用と膀胱血流量の増加
副交感神経からメッセンジャー物質である一酸化窒素(NO)が放出され、平滑筋細胞にはいりこむと、平滑筋細胞内でサイクリックGMP(cGMP)の産生が促されます。cGMPは筋肉を緩めるプロテインキナーゼを有効化するとともに、筋収縮に直接関わるカルシウムイオンの細胞内濃度を低下させて平滑筋弛緩作用をもたらします。細胞内ではcGMPをPDE5という物質が分解して無効化させていますから、このPDE5の働きを邪魔することでcGMPが働きやすくして、平滑筋が緩む効果が生まれます。

cGMP

PDE5阻害剤の平滑筋弛緩作用によって、排尿期の前立腺括約筋が緩みやすくなるので、尿道抵抗が下がり、尿を出しやすくします。
一方、蓄尿期においては膀胱括約筋を弛緩させて尿を貯めやすくするだけではなく、NOが膀胱にいく血流量を増加させるために、長年の間に無理して肥厚硬化してしまった膀胱壁が柔らかくなって、尿を貯めやすくすると考えられています。

ザルティア平滑筋弛緩

②神経伝達促進作用
NOは、副交感神経の伝達物質ですから、その活性を高めることによって、神経リレーの正常化が期待できます。つまり、仙髄における排尿反射の複雑な神経リレーを正常化することと、上位中枢からの意思を正確に伝えることが可能になるので、ある程度尿意を我慢できるようになるのです。
ザルティア神経伝達

あわせて、副交感神経C繊維を介する「膀胱壁の不随意な局所的収縮」も改善します。。。って、難しいので、例えて言えば高校の朝礼で全校生徒が前を向いて整列しているのに、ほんの数人だけが後ろを向いてしゃがみこんで、タバコでも吸っていたら、学校全体が乱れますよね。そのような状態が「膀胱壁の不随意な局所的収縮」といって、これが蓄尿期に起こると、膀胱全体が筋肉を弛緩させて尿を溜めるのか、筋肉を縮めて排尿するのか、パニックになってしまい、強い尿意刺激、尿失禁となってしまいます。

上記のような理由で、PDE5阻害剤は神経伝達促進作用によって尿意刺激の抑制作用をもたらします。
③その他の作用

PDE5阻害剤は動物実験で、細胞の寿命に関与するSIRT1遺伝子(別名長寿遺伝子)を活性化させることが証明されています。また、細胞における酸化ストレス改善作用もあることが知られて来ました。血管壁の過緊張を改善させることや、cGMPの作用によって血管内皮の保護、修復もできることもわかってきました。テストステロン(男性ホルモン)は年々低下していきますが、PDE5阻害剤はテストステロンを消費する細胞のサビをとることでテストステロン活性を活発化させるので、ホルモン補充療法のような副作用はありません。

ザルティアその他の作用

これらの作用によって、PDE5阻害剤には細胞の若返り、EDや心筋梗塞の予防、糖尿病、動脈硬化の予防と改善といった、アンチエージング効果が期待できることがわかってきました。