尿道炎治療の実際

投稿日:2012年1月8日|カテゴリ:淋病とクラミジア感染症

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2012年1月18日更新
この記事は著者と順天堂大学感染制御科の菊池准教授との共同研究2007年日本泌尿器科学会総会、2008年日本細菌学会の発表ならびに、日本臨床衛生検査技師会、東京都薬剤師会、西日本泌尿器科学会総会における学術講演「細菌学的根拠の基づいた男性尿道炎の診断と治療」の内容から抜粋して一般の方向けにわかりやすく書き直したものです。なお、この記事の内容の一部は著者の個人的意見であり、現在日本の学会における多数派の見解とは異なる部分があります。あくまでも患者様の利益を最優先に述べたものですから、学問的な是非を論じるものではありません。


医療機関様で日常診療にお役立ていただけると幸いですが、医療機関様がご利用されるにあたっては著者ならびに共同研究者は一切の責任を負いかねることをご了解ください。なお、著者の許可なく書籍、インターネット、論文ほかに記事や画像の一部または全部を転載、引用、公開を禁止いたします。

■ 膿性尿道炎>淋菌性尿道炎>の治療

膿性尿道炎の約80%から淋菌が検出されますので、初期治療は淋菌をターゲットにして行います。淋菌は細胞の外で増殖するスピードが速いので、症状に気づくと短期間で一気に悪化する傾向があります。治療はそのスピードに合わせて、注射薬を使います。内服薬だけをだらだらと使っていては耐性菌を作って、後々慢性化させてしまい、患者様を長く苦しめることになりかねません。


図 淋菌感染症治療の基本

 

治療薬の選択にあたっては、当院と順天堂大学感染制御科の共同研究から、淋菌臨床分離株180株に対する薬剤感受性と耐性化率を参考にいたしました。


図 淋菌耐性化率

上記の表で一番左側、( )内の数字が耐性化率です

 

アメリカが何でも良いとは申しませんが、アメリカの基準では耐性化が5%を超える薬は不適切とされます。一方日本では98%も耐性化が進んでしまった薬でもまだ健康保険で使えるのですから、時代遅れで飽きれてしまいます。 「淋病治療の大原則」 (バックナンバー)と、 「尿道炎治療のNG特集」 「淋菌とクラミジアが合併するときの治療方針」(専門医向け記事)はこちらからご覧になれます

漿液性尿道炎>クラミジア、マイコプラズマ>の治療

漿液性尿道炎の場合、約半数でクラミジア感染を認め、さらにマイコプラズマやウレアプラズマも多く認められます。そのため、従来から行われてきた、クラミジアだけに有効な治療では、全体の半分も治せないということに、そろそろ日本の医者たちも気づくべきだと思いますが、現実では旧来の考え方をする医者が多数派を占めています。

クラミジアは、自ら細胞分裂をするために必要なエネルギーを作れないので、人間の細胞の中に寄生しています。検査でなかなか見つからないのは、そのためです。下図はドイツの教科書から引用したクラミジアのライフサイクルですが、細胞の外にいるのは48〜72時間のライフサイクルのうちたった2時間だけです。



図 クラミジアのライフサイクル


そのため、クラミジアの治療には細胞に移行しやすい薬を長期間(1〜2週間)継続的に投与しなければなりません。その意味でジスロマック2000mg単回投与は、クラミジアの治療に適していると申せましょう。1回だけ飲んで90%のひとが治せる薬はすばらしい発明だと思います。これを開発したひとの敬意を表したいと思います。ただし、文献的にジスロマック2000mg単回投与後のクラミジア消失率は約90%であって、1割のひとには不十分であると言う事実も付け加えておきます。すばらしい薬であっても、その実力と限界をしっかり知らないで使うことがないよう、医師たちは心がけるべきだと、自戒を込めて申し上げます。

クラミジアやマイコプラズマに対する抗菌力と、細胞内移行性があって、安全でしかも健康保険の適応のある薬剤は非常に限られています。



図 クラミジア治療の原則


現在最もよく使われているクラビットやミノマイシンでは不十分で、慢性化や遷延化の原因になっています。治療薬の選択は非常に難しいので、専門医向けの記事として記載いたします。

「クラミジア治療に時間がかかる理由」 「クラミジア基礎知識」(バックナンバー)はこちらからご覧になれます

「淋菌治療のNG特集」「淋病とクラミジアが合併するときの治療方針」「クラミジア検査結果の読み方」(専門医向け)記事はこちらから