淋病治療の大原則

投稿日:2010年6月8日|カテゴリ:バックナンバー
●淋病治療の大原則

 

 淋病は、発見が早くて適切な治療を受ければ比較的簡単に完治させることができますが、時機を失したり、間違えた治 療方法だと、なかかなか治しづらくなってしまい、患者様は大変つらい思いを強いられてしまいます。その責任の一端は医者にあります。淋病とクラミジアはよ く似た病気であり、約2割〜4割がお互いを合併しています。この二つは治療の方法がまったく異なります。1990年代初頭「淋病とクラミジアの両方に効 く」といわれたニューキノロンの乱用によって、事態はさらに悪化してしまいました。治療するつもりが病気を進化させてしまったのです。そのような失敗を二 度と繰り返さないためにも治療の基本を忠実に守った治療をしなければなりません。

淋病治療の大原則-その① パートナーと同時治療の原則

 淋菌は感染してほぼ1週間以内に症状を表しますが、約半分のひとにはほとんど症状が出ません。問題のあった性行為がいつだったのかわかっていれば、その 後パートナーに感染を移してしまったかどうかをよく考えて、もしもその可能性があるならパートナーも治療を受けてもらいましょう。性病は自分ひとりだけの 病気ではなく、性の環境汚染であることをよく理解してください。
淋病治療の大原則-その② 短期決戦の原則


 抗生物質は
淋菌に 対して「血中濃度依存的」に働きます。短時間であっても血中濃度が高いほどよく効くのです。ですから淋病と診断したらすぐに注射が必要です。飲み薬で血中 濃度を上げるには大量の服用が必要ですし、飲んでから腸管で吸収されて血中濃度があがるまで数時間かかります。ですから淋病の治療には注射薬が必要なので す。その代わりだらだらと薬を飲んでいる必要はありません。

 反対にクラミジアは「時間依存的効果」ですから、有効血中濃度を2週間維持していなければなりません。すなわち2週間毎日薬を飲み続ける必要があるのです。淋病とクラミジアが合併する場合では、はじめに淋病の治療を優先させ、その後じっくりクラミジアを治療します。

 

著者の治療計画
■(1)淋菌感染症(いわゆる淋病)の場合
・オーグメンチン250 4-6錠 4日
・再診時症状の様子でトロビシン2g筋注追加

 

・セフテム,ビブラマイシン、ニューキノロンはすでに耐性淋菌が増えて,無効なことが多いため使用しません。

・難治例ではミノマイシン、エリスロマイシンが有効ですが,ある程度の副作用は覚悟の上で大量投与します。

・クラミジアとの合併が疑われる場合は早期にロセフィン点滴静注を使い、すみやかにクラミジアの治療に移行するようにします。

 

淋病の治療 実践例
 著者のもとには「ほかの施設で治療されていたがよくならない」 とか、「薬をやめたら症状がぶり返した」という患者さんがあとを絶ちません。再発性の場合はパートナーの治療が十分であったか、よく問診で確認しなければ なりません。せっかくパートナーが医療機関を受診しても「検査で陰性だったから治療の必要はない。」と、治療してもらえずに帰されてしまうケースも目立ち ます。淋菌やクラミジアはパートナーと同時に治療しなければ治したことにはなりません。そうでない場合は、前医の処方やパートナーに出された処方内容を確 認します。時として驚くような処方をされている先生もあります。ただし、そのときの現場の判断であった可能性もあるので、一概には批判できません。以下に そのようなひとたちが受けてきた治療例を示しました。患者様を健康被害から守るために、このような治療をする医療機関は特に大学病院に多いことをあえて公 開いたします。

 

■ よく見かける”注意するべき処方” 

<注意すべき処方例>
①淋菌感染症にミノマイシン200mgを3日から2週間投与
淋菌感染症には初期治療が非常に重要です。副作用が強くて効果の期待が薄いミノマイシンはファーストチョイスにはならないと考えます。また、ミノマイシンは製造メーカーによって効果にばらつきがありますから、注意が必要です。

②淋菌感染症にクラビット3Tを1から2週間投与
ニューキノロンには耐性菌が多く出来ており、クラビットに限らずシプロキサン等は効果が期待できません。ガチフロキサシンは1日4T投与で効果が期待でき ますが、これも発売当初よりも効きが悪くなっています。淋菌とクラミジアの混合感染が疑われるときはクラミジアに対してガチフロキサシンやアジスロマイシ ンを内服処方することはありますが、まず淋菌の治療を優先することが原則ですから、初診時から積極的にロセフィン点滴を使います。

③淋病にクラリス
クラリス・クラリシッドは、クラミジアトラコマティスに対するMIC が低く、最も効果が期待できる薬剤のひとつですが、通常成人に1日400mg 投与します。 しかし淋菌に対する効果は期待できませんのでこの処方はまったく論外です。

④ジスロマック
ジスロマックはクラミジアに対して有効ですが、淋病の治療には不向きです。ジスロマック1000mgの単回投与は、クラミジアトラコマティスに対する MIC90:0.25μg/mlを10日間ほど持続することから、とくに飲み忘れの多い患者様に対して使用されのですが、500mg単回投与では組織内に おける最小殺菌濃度を維持できないことが予想されるために、十分な治療効果が得られない可能性が高いと考えます。健康保険組合からこのような減額を強制さ れることがありますが、厚生労働省の指示にも用法容量は1000mgになっています。ただし、臨床上、ジスロマック1000mgの単回投与だけで治癒しな い患者様も多数経験いたしますので、治癒の判定は慎重に行うべきです。

新宿さくらクリニック・ホームページ「専門医のための男性尿道炎治療例」から引用