尿道炎治療のNG特集

投稿日:2010年6月8日|カテゴリ:専門医向け記事
■ 尿道炎治療のNG特集
著者のもとには「ほかで尿道炎と診断されて治療を受けているがなかなか治らない」といって訪れる患者様が毎日一人か二人はいらっしゃいます。ほとんどの場 合は患者様の思い過ごしで診断も処方も正しいので、「もとの先生に通院してください」と申し上げています。しかし中にはとんでもない処方をされていること もあります。そんなNG特集を掲載いたしました。このページは患者様の健康被害をなくしたいという願いから書いております。個々の事例で主治医の判断によ る場合もございますので、特定の医療機関を中傷する意図はございません。

その1 淋菌とクラミジアにレボフロキサシン(100mg)3錠x7日間
クラビットはニューキノロン系抗菌剤の代表的なお薬で、広い抗菌作用を有し,副作用も少なくて、非常に使いやすい薬です。淋菌とクラミジアに適応を認可 されていますので、「これを飲めば淋病とクラミジアが同時に治せる」と説明するドクターもかつてはいらっしゃいました。しかし、クラビットに対して耐性を 持つ耐性淋菌ができてしまい、臨床的には推奨できない状態です。クラビット100mg錠は発売停止になり、現在500mg錠を1回飲む方法が保険適応になっています。これはPK-PD理論に基づく改良に伴うもので著者などは10年ほど前から第一製薬に提案してきて、最近実現いたしました。

クラミジアに対しても、通常の1日投与量300mgでは効きが悪い印象があります。著者は まれにクラミジアの治療の場合に500mgの単回投与を行いますが、もっと有効で飲みやすい薬が登場していますので、あ まりお勧めはしていません。

レボフロキサシンはクラビット100mgに相当するジェネリックですが、クラビット100mgに対して効果が劣る印象があり、中途半端な抗菌力で耐性菌を増やす原因と考えています。

その2 淋菌とクラミジアにミノマイシン 150mg/日

ミノマイシンも淋菌とクラミジアの両方に適応を許可されたお薬です。値段も安くて広く使われています。しかし淋菌の耐性率は90%にも上るので、全く効果が期待できません。クラミジアに対しては日本性感染症学会のガイドラインにも載っており、効果が期待できます。ただし、著者は経験上成人男性には1日 300mg投与することをお勧めしています。1日量200mgの処方でなかなか治らなかった症例を多数経験しているからです。ただし、ミノマイシンで強い めまいを起こすことがありますから、ほかに有効で安全な治療薬がある以上最初からミノマイシンを処方することはお勧めいたしません。

ましてやそれ以下の150mg/日とか、100mg/日の処方された患者様をときどき拝見いたしますが、このようなこども向けの投与量では治せる病気も 治せるはずがありません。

尿道炎はたとえ不十分な治療をしていても自覚症状が消えてしまいますから、このような半端な治療でも症状が消えて、治ったと誤解 していると、菌が体の奥に侵入してしまい、大変な後遺症を引き起こす原因になります。このような処方はNGどころか、犯罪です

ミノマイシンには、ジェネリック薬品といって安価なものが市場に出ていますが、メーカーによって吸収率にばらつきがあり、効果も一定していません。オリジナルのレダリー社のものをお勧めいたします。

その3 クラミジアに小児用クラリスロマイシン(50mg)3錠x7日間
この処方も時々見かけます。大正富山薬品の「クラリス」とダイナボットの「クラリシッド」がこれに当てはまります。クラリスは日本で開発されてクラミジア に対する効果はほかの抗生物質より優れていますので、世界中で使用されています。ただし、その薬でさえ、成人の1日用量は400mgです。肝機能や腎機能 がよほど悪い患者様でない限り小児用の50mgを処方することはありません。
その4 淋菌とクラミジアにシプロキサン・バクシダール
これらの薬はニューキノロン系抗菌薬の元祖とも呼べる歴史のあるお薬で、ずいぶんと感染症の治療に役立ちました。いずれも淋菌への保険適応が認められて いますが、今では耐性化がすすんでこれらの薬はほとんど効かなくなってしまっています。クラミジアに対してはもともと保険適応すらありませんが、いまでも 風邪などでよく使われるので、尿道炎にもいまだにこれらの処方をされることがあります。
その5 ジスロマック 500mgx1〜3日間
ジスロマックは、1回(1日分)だけ服用すると、1週間から2週間の血中濃度が持続され、毎日薬を飲む必要がない大変便利なお薬です。 クラミジアに対する効果も安定していて、著者もよく処方いたします。しかし、上気道炎の処方は500mgx3日となっており、このような使い方ではクラミ ジアに対する有効な組織内濃度が維持できません。

また、このお薬は淋菌に対しても有効性がありますが、臨床的には不十分です。日本性感染症学会の治療ガイドラインでも推奨されていませんので、著者は淋菌の治療には使いませんが、どういう訳かジスロマック2000mgドライシロップが保険適応が認められてしまいました。外圧ということとしか思えません。

「これを1回飲めば必ず治るからもう来なくてもいい」と宣言されるドクターがいるようですが、不勉強にもほどがあります。なぜなら、この薬は、2000mgの大容量単回投与によって腸管から吸収されると白血球に貪食された後に、1〜2週間にわたって徐々に放出される体内徐放剤」だから、注射薬のように血中濃度や組織内濃度が一気に高まる訳ではないのです

メーカーのデータではジスロマック1000mgの単回投与でクラミジアの除菌率90%となっていますが、実際の臨床では、単回投与だけで尿道分泌物までき れいに治る人は6割ほどです。まして500mgでは3日続けたってもっと効きません。尿道炎ではクラミジアばかりではなく、そのほかの菌も混合感染していることが多いために、このような結果になっているものと 推測します。

その6 クラミジアと淋菌にセフェム系抗生物質

適応もないのにまさかと思われるでしょうけれども、意外に多いNG処方です。セフェム系抗生物質はクラミジアには効きません。淋菌にもセフスパンなど、 ごく一部のセフェムは有効なこともありますが、たいていは耐性化が進んでいます。淋菌の治療は注射薬が主体です。アレルギー体質など、特殊な場合を除いて は尿道炎に(淋菌に対するセフスパンを除いて)セフェムを使うことは考えられません。