性病患者はどれぐらいいるのか

投稿日:2010年6月8日|カテゴリ:基礎知識

●性病患者はどれぐらいいるのか

「性病は増えている」とよく言われますが、本当にそうなのでしょうか。最も多い性器クラミジア感染症についてネット上の記事を読むと「4年で2倍になった」とか、女性では人口の半分に存在するとか、根も葉もない記述が少なくありません。むやみに読者を怖がらせるのを著者は望みません。真実はどうなのでしょうか。最 も信頼できるデータのひとつが国が行っている感染症発生動向調査です。全国600件もの医療機関が参加して毎月集計しています。著者も平成6年から12年 間この調査にデータを提供しています。この発表データをもとにしていろいろなひとがいろいろな解釈を加えて、時にはとんでもなく間違った情報が広まってい るのです。ですからデータはデータのまま手を加えずに載せました。(国立感染症研究所 感染症発生動向調査)  以下の数字は、国から指定された「定点」と呼ばれる医療機関からの患者報告数ですから、感染者の一部に過ぎません。実際には自覚症状がない感染者はこの5倍以上いるといわれています。ですから数字の大小を論じることにあまり意味はありません。
 

年別性感染症患者発生状況, 1999-2003(感染症発生動向調査)
患者報告数
1999*
2000
2001
2002
2003
淋病様疾患

10115

14196
17205
17591
16031
性器クラミジア感染症
11007
15856
17497
18284
17555
性器ヘルペス
2975
3907
3957
4074
4042
尖圭コンジローマ
1820
2511
2814
3044
3281

 

患者報告数
1999*
2000
2001
2002
2003
淋病様疾患
1732
2730
3457
4330
4495
性器クラミジア感染症
14026
21172
23339
25482
24053
性器ヘルペス
3591
5093
5357
5592
5684
尖圭コンジローマ
1370
2042
2364
2657
2925

 上の表で1999年*は4月から12月までの集計ですから、これを単純に2003年のデータと比べることはできません。単純に比べたから「4年で2倍」 などという記事になってしまうのです。それでもここ数年にわたって年々性病が増える傾向にあることはお分かりいただけるでしょう。ただし、2002年から 2003年にかけては横ばいから、少しだけ減る傾向が見られました。特に10代から20代の若い世代の数が減り、逆に30代以降の世代に増えています。

 下は2000年から2002年間での3年間に新宿さくらクリニックで診断された男性尿道炎の年齢別患者数比較です。患者総数は若い世代が圧倒的に多く、 全ての年齢層で増えているのですけれども、ピークの年齢が3年間で約5歳も高くなっています。中年以降の患者さんのほとんどが風俗関係のオラルセックスで 感染していることも最近の傾向です。性器同士の結合がなければ性病は移らないというのは迷信です。実際にはオラルセックスが性病蔓延の元凶あることをよく理解してください。
 

2004年11月 に大宮市で行われた埼玉県泌尿器科感染症研究会での講演で著者が使用したグラフです。
2005年新宿さくらクリニック臨床統計
 2005年1月から12月まで新宿さくらクリニック を初めて受診された方(新患)の総数は3052名で、その約半数の1422名が泌尿器科またはSTD関連の患者様でした。女性219名男性1203名と、 圧倒的に男性が多いのですが、内科と皮膚科を合わせると男女比はほぼ同じぐらいになります。下に2005年1年間に診断されたSTD統計をお示しします。 このデータは東京都感染症サーベイランスを経由して全国の感染症発生動向調査(前述)に報告しています。男性では全国の約1%にあたります。重複や再発を 除いた新患データですので、報告と若干食い違うところがあります。

STD(性病)患者統計 2005年1月から12月   新宿さくらクリニック
 
男性
女性
淋病(淋菌性尿道炎)
222
40
性器クラミジア感染症
196
53
淋菌+クラミジアの合併
33
6
非淋菌性・非クラミジア性感染症*
406
64
性器ヘルペス
76
16
尖圭コンジローマ
93
17
梅毒トレポネーマ感染
11
0

*重複感染もあるので、合計は総数と一致しません。個人情報は東京都や厚生労働省省そのほか講演会等におきましてもいっさい知らせていません。

●原因不明の感染症が約半分  
  当院の統計では、主な性病のうち、最も多かったのは淋病で、男女合わせて262例でした。次に多いのはクラミジア感染症の149例でした。非淋菌・非クラ ミジア性感染症とは、性病以外の病原菌(大腸菌やブドウ球菌ほか)によるものや、明らかな炎症所見や臨床症状があるにもかかわらず原因の病原菌が発見でき なかったものです。なぜそのようなことが起こるのか、検査の限界、健康保険の範囲内では調べることができない病原菌、ウィルス感染症などなどが考えられま す。詳しくはそれぞれの疾患別のページをご覧ください。

  このような原因不明の感染症の中に、マイコプラズマ・ジェニタリウムという病原体が少なからず含まれているという研究がありますが、残念ながら健康保険では調べることができません。当院ではマイコプラズマを想定した治療も行って、治療成績の向上を図っています。

●本当に女性には淋病が少ないのか

  全国統計では女性では淋病はクラミジアの4-5分の1程度と、非常に少なく、一方男性ではクラミジアと淋病はほぼ同数です。淋病もクラミジアと同じく性行 為感染する病気ですから、男女でこのように大きな差が開くことは現実的には考えられません。当院の2005年の統計では女性の淋病が40例、クラミジア感 染症が53例で、淋病が若干少ないもののほぼ同数検出されました。もちろん、当院にいらっしゃる女性のかたは、男性患者様のパートナーであることが多く、淋菌の検出率が高かったせいでもあるでしょうが、淋菌とクラミジア、一般細菌を同時に検査すると健康保険が適用できないケースもあるので、 検出しやすいクラミジアの検査を優先して淋菌を調べない場合もあることも事実です。著者は「女性には淋病は少ない」という先入観を捨てて、 ひとりひとりの患者様の検査をできるだけ詳しく行うべきだと考えます。

●これから増える?性器ヘルペスと尖圭コンジローマ
 全国統計では性器ヘルペスと尖圭コンジローマは、数も少なくて毎年あまり増加していませんが、臨床の第一線では確実に増えてきています。もともと性器ヘルペスは高齢者になるほど有病率が高くなる病気といわれてきましたが、当院ではほかのSTDと年齢分布はほとんど変わりません。オラルセックスによってくちびるのヘルペスが性器に移ることも多くなったために、病気の性格が変わってきたと考えられますが、詳しいことはわかっていません。

 尖圭コンジローマも最近とてもよく見かけるようになってきました。以前は1個か2個の小さないぼで見つかることが多く、治療も比較的簡単でしたが、 最近では短期間でびっしりと広がるものも少なくなく、特に尿道口にできるものが目立ってきています。亀頭部や尿道口の尖圭コンジローマは、治療が難しく、 再発しやすいので、従来の尖圭コンジローマとはまったく取り扱いが異なり、治療をお受けになる患者様はもとより、治療する医者も大変な苦労をいたします。 これらの部位の尖圭コンジローマはコンドームの着用で防げるので、できる限りコンドームをご使用いただきたいと願っています。 詳しくは「最近注目差荒れている性病」をご覧ください。