2007年度STD臨床統計

当院の2007年STD臨床統計を公開いたします。昨年も多くの患者様が受診していただきました。特に性器ヘルペスと尖圭コンジローマは非常に増えています。性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、梅毒の3疾患は 皮膚粘膜を損傷するためHIV感染を起こしやすくするといわれています。日本では毎年HIV感染者が増え続け、2007年は1年間で新しくHIV感染が見 つかった人が初めて1000人の大台を超えて、現在国が把握しているだけでも国内で8000人以上のHIV感染者がいて、実際はその数倍に上るといわれて います。性器ヘルペスと尖圭コンジローマを治療することはHIVにかかりにくくすることにほかなりません。当院は東京都のSTDサーベイランスに報告する男性症例の約3分の1を報告しております。こ のようなデータは1施設のものだけではなく、社会全体に還元するべきデータであります。当院で起こっているSTDの変化は、必ず5年後、10年後に日本全 国で起こってきたものです。ですから当院では、微力ながらいち早く多くの方にこの事実を知っていただきたくて臨床統計を公開しています。なお、患者様の個人情報は一切公開していませんので、上記のような目的ですので患者様各位には、ご理解のほどをお願い申し上げます。

2007年臨床統計 男性 女性 合計
STI関連患者数 2000 1518 303 270 2303 1788
平均年齢 34 34 26 26
クラミジア感染症 335 262 56 49 391 311
淋菌感染症 286 232 51 47 337 279
非淋菌・クラミジア感染症 740 442 129 107 869 549
性器ヘルペス 243 219 36 35 279 254
尖圭コンジローマ 205 155 24 23 229 178
トリコモナス症 3 2 10 8 13 10
梅毒 33 30 5 5 38 38

上段は2007年診断総数です。下段(青文字)は、新患数です。2006年統計と比較するときは新患数をご参照ください。

疾患別の傾向

クラミジア感染症

男女ともにほぼ前年並みか、少し増えています。国の統計では2004年以降クラミジアの報告数が減る傾向が続いていますが、実際の臨床の現場ではまったく 患者様が減っている実感がありません。残念ながら国のデータが活かされていないと考えます。インターネットなどで検診キットを取り寄せて検査できるように なったため、実際の感染者が見つかりづらくなってしまったことが最大の原因だと考えています。検診キットでの検査は私もぜひ普及していただきたいと考えて いますが、その検査結果を国の統計、ひいてはSTD予防に活かせるような仕組みが必要だと思います。

淋菌感染症

淋菌感染症もクラミジア同様に国の統計では近年減少しています。ところが、当院の統計では減るどころか年々増え続けています。淋菌の検査方法には細菌培養 法と核酸増幅法とがありますが、淋菌は体外に出るとすぐに死んでしまうので、よほど検体保存条件がよくないと、細菌培養法は失敗してしまいます。顕微鏡で 淋菌が確認できたにもかかわらず淋菌培養が陰性であることはざらにありますので、淋菌培養はあまり当てになりません。また、のどの検査ではPCR法では間 違えて陽性になることがあるので、SDA法を行います。このような基本的なことを守って検査していれば、淋菌の検出率は今以上に多くなるはずです。 国の統計では女性では淋菌はクラミジアの5分の1しかないことになっていますが、実際に当院では淋菌とクラミジアは ほとんど同数検出されています。
このように淋菌の検査にはとても問題がありますので、当院では独自に男性尿道炎の診断方法を開発して、診断精度の向上に努めています。この方法は日本泌尿器科学会や日本性感染症学会で発表して、普及に努めています。

性器ヘルペス

2006年9月に性器ヘルペス再発抑制療法が保険適応になったため、非常に注目されるようになり、今まで受診しないであきらめていた患者様が受診してくだ さるようになりました。そのため前年比38%もの増加がありました。新しい治療方法が出来た影響は否定できませんが、去年の東京都のSTD統計では淋菌感 染症を抜いて第2位になりましたから患者様の実数が増えていることも考えられます。前述のように性器ヘルペスはHIVの感染を広める役目がありますから、 少しでも多くの患者様を診断して予防に努めたいと、講演会でも熱心に広報に努力しています。

尖圭コンジローマ

尖圭コンジローマはHPVというウイルスの感染によってできるいぼです。20代では半数近くの人がHPVに感染している可能性がありますが、感染しても発 病するのはたったの数%の人に過ぎません。尖圭コンジローマは年々増え続けています。この病気は知らずに放置しておくとがんになる危険がありますから注意 が必要です。また、この病気も皮膚粘膜を傷つけることからHIV(エイズウイルス)の体内への侵入を助ける役目がありますから、尖圭コンジローマの治療と 予防はHIV感染の拡散を予防するためにも重要です。
2007年12月にHPVに対する免疫を作る画期的な薬が発売されました。この薬によって、今まで再発を繰り返してきた患者様も治せるようになって来ました。ベセルナクリームについての詳細は持田製薬のホームページをご覧ください。

梅毒

梅毒は実数が少ないので目立ちませんがこれも近年増え続けています。前年比50%増です。梅毒の診断基準を国と日本性感染症学会が定めていますが、 2008年4月から一部の検査センターで診断基準になる検査方法が出来なくなってしまいました。今後診断できずに野放しになってしまうことも予想され、非 常に憂慮すべき事態です。当院では今後も国の基準(感染症法)に従った検査体制を取るつもりではありますが、この事実はあまり知られていませんので全国的 に梅毒が診断できない事態も差し迫っており、とても心配しています。昔に比べると梅毒はほとんど見かけなくなってしまったので一般の医師が梅毒に気づかな いで湿疹として治療しているとか、梅毒の診断基準を知らないなどで診断されていないことがよくあります。国の統計で2005年に新たに診断された梅毒感染 者の26%が50歳以上、7%が70歳以上というデータは信用できません。過去に感染したものと現在治療が必要なものなのか、きちんと検査すればわかるも のですから、国が決めた診断基準がいかに守られていないかがよくわかるデータです。
検査は信頼の置ける医療施設で受けるようにしてください。