当院の2009年STD(STI)臨床統計を公開いたします。昨年も多くの患者様が受診されました2008年は2007年に比べてクラミジアと淋菌の数が減って、尖圭コンジローマが増えたため、ほぼ前年と同じか、若干多くなりました。下記に各疾患ごとのコメントを載せます。あくまでも当院の統計ですので全国統計とは傾向が異なります。ただし、STIの最先端での出来事は、数年後に全国的に似たような傾向になりますので、目が離せません。なお、患者様の個人情報は一切公開していません。STD(STI)の実態を広く知らせて予防啓発する目的ですので患者様各位には、ご理解のほどをお願い申し上げます。この記事の一部でも当院に無断で転載、転用することを固くお断りいたしま

2009年臨床統計 男性 女性 合計
STI関連患者数 2037 1410 314 239 2351 1649
平均年齢 35.2 34.5 27.7 28.0 33.4 33.5
クラミジア感染症 241 162 38 30 279 192
淋菌感染症 212 156 28 17 240 192
非淋菌・非クラミジア感染症 903 589 194 140 1099 729
性器ヘルペス 159 151 25 23 184 174
尖圭コンジローマ 218 191 33 33 251 224
トリコモナス症 0 0 4 4 4 4
梅毒 22 17 1 1 22 18

上段は2009年診断総数です。下段(青文字)は、新患数です。2008年統計と比較するときは新患数をご参照ください。

各疾患の傾向

総数

2008年と比較してSTI患者総数は8%ほどの減少でしたが、新患総数はむしろ増加傾向にありました。全国的にクラミジア感染症が減少して、約10年前の数字に戻っていますが、当院でもクラミジア、淋菌感染症の減少が見られました。詳しい資料がありませんが薬剤の使用量から、クラミジア、淋菌、性器ヘルペス、尖圭コンジローマの4疾患について昨年も当院が全国で最も多い症例実績があったと推定されます

クラミジア感染症

全国統計では過去10年間でクラミジア感染症は半減していますが、当院ではそれほど大きな変化はありません。女性新患では前年と同じ数字で「クラミジアが減っている」とは思えません。クラミジアの検出は非常に難しく、約25%は偽陰性(菌があっても陰性になる)なので、検査制度に影響されているものと推測します。まだまだ油断できない疾患です。

淋菌感染症

今年もほぼクラミジアと同程度に淋菌感染症が見られました。特に女性では、全国統計では淋菌はクラミジアの5分の1しか報告されていませんが、性行為で感染する疾患に男女差があることがおかしいので、おそらく女性で淋菌を調べる機会が少なすぎるものと推測します。従来から「淋菌はクラミジアと同程度」との当院の主張が裏付けられた結果です。

非淋菌・非クラミジア感染症

クラミジア・淋菌感染症が減る傾向にありますが、非淋菌・非クラミジア感染症は前年とほぼ同数でした。マイコプラズマ属や髄膜炎菌、B群溶連菌などがおおいものと推測します。ただしこれらの細菌は、通常の検査では検出しにくく、健康保険の適応も無いために、「病気ではない」と判断されて治療すら受けられない場合も多々見かけます。クラミジア・淋菌だけが「性病」と考えていた古い時代の考え方が、まだはびこっています。もちろんこれらの細菌もきちんと治療しなければなりません。

性器ヘルペス

2006年に性器ヘルペス再発抑制療法が保険適応になり、現在200例以上の患者様を治療しています。そのため、性器ヘルペスの新患数は若干減ってきていますが、東京都のSTIサーベイランスの男性症例の半数近くを当院が報告しています。性器ヘルペスは皮膚疾患として外用薬しか処方されないことがありますが、神経の奥深くに感染していますから、見た目の症状が軽くても内服治療することが基本です。

尖圭コンジローマ

尖圭コンジローマも東京都のSTIサーベイランスの男性症例の半数近くを当院が報告しています。2009年ベセルナCrの処方数は全国1位でした。この薬はウイルスに対する免疫を高めて治療するので、イボが消えるまでに平均で2〜3ヶ月かかりますが、他の治療方法に比べて再発率が低いことが長所です。