当院の2011年STD(STI)臨床統計を公開いたします。検査方法の変更等により、過去のデータとの単純比較困難ですので、増減比較は著者の印象によります。また都合により2010年の統計は集計が遅れていますが、ご容赦のほどをお願いいたします。この記事の一部でも当院に無断で転載、転用することを固くお断りいたします。

2011年臨床統計 男性 女性 合計
STI関連患者数 1907    1320
327    232 2234    1552
平均年齢 34.7 26.9 33.4
年齢幅 16~72 18~59 16~72
クラミジア感染症 324     228 59     44 383     272
淋菌感染症 347     265 63     44 410     309
非淋菌・非クラミジア感染症 790     464 109     63 899     527
性器ヘルペス 144     138 35     32 179     170
尖圭コンジローマ 211     182 41     37 252     219
トリコモナス症 0     0 4     3 4     3
梅毒 12     10 0     0 12     10
STI検診 86     56 23     13 110     69

上段は2011年の診断総数です。青文字は新患数です。
 

参考資料・非STI感染症
男性
    慢性前立腺炎 365
              亀頭包皮炎  92

女性  急性膀胱炎  365

 

各疾患の傾向

患者数、新患数

2011年1月から12月までの1年間で性感染症関連の患者数は延べ2234名で、男性1907名、女性327名でした。そのうち当院に初めていらしたという患者様は1552名(新患率69%)、男性1320名(同69%)、女性232名(同71%)でした。当院は泌尿器科をメインに標榜して、産婦人科の標榜をしていませんので、例年男女比は5:1で男性が多くなります。男性5疾患(クラミジア、淋菌、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、梅毒)の東京都性感染症サーベイランス報告者数は例年3000例前後ですので、当院から約1/3(1102例)をご報告しています。

疾患別ではクラミジア感染症383名(男性324名、女性59名)、淋菌感染症410名(男性347名、女性63名)、非淋菌非クラミジア感染症899名(男性790名、女性109名)、性器ヘルペス179名(男性144名、女性35名)、尖圭コンジローマ252名(男性211名、女性41名)でした。そのほか新規梅毒(男性のみ)12名、トリコモナス(女性のみ)4名でした。疾患構成で男女差がほとんどないのは例年と変わりません。性行為でうつる感染症で男女差があるほうが基本的におかしいのですが、国の統計では女性ではクラミジアや淋菌の検出率は男性に比べて1/3~1/5と少ないとされています。女性では遺伝子増幅法の阻害因子があったり、検出精度が悪い検査をしていたり、感染巣のターゲットが絞りにくいことが原因と考えられます。

性感染症以外では男性の慢性前立腺炎新患が273名と亀頭包皮炎92名、毛じらみ症18名、と女性の急性膀胱炎379例が目立ちました。そのほか、性行為でも感染することが知られている疥癬28(男性22名、女性6名)が例年よりも多く目立ちました。

 

クラミジア感染症

全国統計ではクラミジア感染症は2003年をピークに年々減る傾向にありますが、当院では減る傾向はありません。2000年以降クラミジアのライフサイクルが解明されて、クラミジア感染症に有効な薬が相次いで発売されたために一般の有病率が下がったとは思いますがまだまだ数が多いので油断できません。

当院へはほかの医療機関で治らないでこじれてしまった患者様が多くみられるので一般の医療機関と傾向が異なっているのかもしれません。そのような患者様の多くがクラミジアに効かない薬を出されていたり、薬の量が少なすぎたり、治療期間が短すぎたりすることがほとんどです。大学病院でもそのようなことがありますから、この分野における日本の医療水準の低さを物語っています。

淋菌感染症

淋菌感染症も全国統計では減る傾向にありますが、当院ではむしろ年々増えている印象があります。当院では淋菌検出に核酸増幅法のひとつであるSDA法を用いていますので男女ともに検出率が高いのだと思います。この方法はクラミジアと淋菌を同時に測定でき、咽頭のナイセリア属による偽陽性(淋菌と間違えて陽性になること)がない優れた検査方法ですが、男性には健康保険の適応が通っていないので、一般には行われていません。保険で通るようになれば隠れ淋菌がもっと見つかることでしょう。

隠れ淋菌といえば咽頭淋菌感染症もよく遭遇します。咽頭のSTIはおもに女性での感染が多く、オーラルセックスでうつっていると考えられます。逆に男性ではあまり見かけません。もともとのどの環境には淋菌やクラミジアが感染しずらいのですが、繰り返しオーラルセックスをするような性風俗の方々にとっては感染リスクが高いといえます。のどの淋菌やクラミジア感染症はほとんど自覚症状が出ないことが多いので、リスクの高い方は定期的に検査をお勧めしています。ただし、無症状の方の検査は健康保険が効きません。また、症状があってもほかで治療されたが治らないなどの事情がない限り、咽頭の検査は自費でお受けいただいております。

性器ヘルペス

2006年から性器ヘルペス再発抑制療法ができるようになり、当院では2007年をピークに性器ヘルペスは確実に減っています。従来は性器ヘルペスの再発をさせないために日常生活を厳しく制限されていましたが、有効な治療方法ができたおかげで「性器ヘルペスはコントロールできる病気」となり、生活の制限をほとんどしなくてよくなりました。

従来型の抑制的な生活指導をすると、かえって患者様のメンタルダメージを強くしてしまい、セックスレス、ノイローゼ、引きこもりになってしまうこともままありましたが、再発抑制療法によってそのようなストレスから解放される患者様が大変多くいらっしゃいます。お心当たりの方は是非ご相談ください。

尖圭コンジローマ

尖圭コンジローマの免疫賦活療法が2007年からできるようになって再発率が減っています。当院へは、「ほかで治らない」という患者様が多いので、東京都の男性患者様の約半数がおみえになっています。

免疫賦活療法に使うベセルナCrは優れた薬ですが、使い方によって成績が大きく変わってしまいます。薬の使い方も米国の特許ですので、日本人のライフスタイルに合っていません。当院では独自に日本人のライフスタイルに合わせて患者マネジメントを改良して、治療成績、治療期間、副作用、ドロップアウトのすべてで目覚ましい改善に成功しました。