性器ヘルペス再発抑制療法の実際

投稿日:2010年6月8日|カテゴリ:性器ヘルペス

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2012年1月18日更新
性器ヘルペスは再発を繰り返す病気です。多い方では毎月のように再発が起こります。再発中は体力を温存するために生活の制限など少なからず負担があります。当院では5年間で300例以上の治療経験で、症例数日本一の実績があります。その経験から、性器ヘルペス再発抑制療法は、真の意味での患者救済につながるものとの確信を得ました。そこで治療経験をもとに日本性感染症学会での教育セミナーを始め、全国規模の講演会を通して正しい治療の普及に努めております。

この記事は講演会の内容から抜粋して、一般の方にもご理解できるように書き直したものです。医療機関様で日常診療にお役立ていただけると幸いです。なお、著者の許可なく書籍、インターネット、論文ほかに記事や画像の一部または全部を転載、引用、公開を禁止いたします。

ウィルス抑制の実際とPatient on demand 方式

 

再発を繰り返す患者様に、バルトレックスを1日1錠、8週間から最大1年続けて服用することにより体内のウイルスボリュームを減らします。1年間かけて体内のウイルスボリュームを3分の1程度に減らすと考えられています。しかもウイルス活性はさらに抑制されます(下図イメージ)。

 

図 ウイルス抑制のイメージ

 

つまりこの治療は、1年間かけて再発症状を抑制するばかりではなく、体内のウイルスボリュウムを減らし、ウイルスの活性も抑制するのなので、再発症状がなくても毎日薬を飲み続ける必要があります。 

ウイルスが全くなくなる訳ではないので治療中に再発することもありますが、それは治療の失敗ではありません。なぜなら再発するまでに出来ることが治療前に比べて大幅に改善されていて、よほど疲れたとかでない限り再発しないからです。また、再発したとしてもその症状はとても軽く、バルトレックスを1日2回に増量して1〜3日間ですぐによくなります。

「1年も続ける自信がない」という声をよく聞きますが、当院では76%もの患者様が1年間治療を継続しておられます。患者様の自己判断で必要なときに増量して良いとご指導しています。とはいえ患者様が勝手に治療するのではなく、症状と内服状況は抑制療法ダイアリー(下左図)

 


図 ダイアリー

 

 

に記載していただき、後日診察時にご報告いただき、再発や服薬状況をチェックさせていただいております。再発時の増量を患者様のご判断に任せることで患者様ご自身が治療の主役であるという認識をしていただくことが出来ます。

 

このような考え方はPatient on demand 方式といって、長期間の継続が必要な治療の場合に有効です。古くは服薬コンプライアンスといって、患者様が医者の指示に従って服薬させるといった考え方が主流でしたが、Patient on demand 方式は、患者様が進んで治療に参加する、アドヒアランス向上を狙った最も進んだ治療哲学に基づいています。

 


図 再発回数の推移

 

上図は当院の性器ヘルペス再発抑制療法222例の抑制療法ダイアリーを解析した結果の一部です。患者様に自由に記載していただいた主観的な症状なので、実際の再発回数ではありません。抑制療法導入後6ヶ月目まで速やかに自覚症状の回数が減ってゆきます。その後も12ヶ月目までは減り方が緩やかになりますが、重い症状はほとんどゼロになります。また、大半の患者様は「再発しても治療前に比べてものすごく軽くすんだ」とか、「再発することが怖くなくなった」とか、「精神的に楽になった」と実感されています。

 

下図は抑制療法ダイアリーに記載していただいた「再発に対する心配」と、「現在の治療に対する満足度」をそれぞれスケール化したものの経時的推移です。

 

 

図 再発に対する心配

図 満足度

それぞれ0点は「とても不安に思う」と、「全く満足していない」を表し、心配の指数は3点満点、満足度は10点満点で患者様に自己評価していただきました。これによると再発に対する不安と満足度ともに再発抑制療法導入直後から6ヶ月目まで改善しつづけその後も治療終了まで維持されることがわかりました。患者様の中には「再発が怖くて長年あきらめていた海外旅行に行けた」とか、「抑うつ気分で精神科に通っていたが再発抑制療法をしてからは精神科の通院をやめた」とか、「パートナーにヘルペスをうつすのと帝王切開が怖くて妊娠をあきらめていたが無事に自然分娩できた」とか、数限りない感謝のお言葉を頂戴して、この治療によって真の意味での患者救済が出来ることを実感しております。

 

健康保険の制約と治療費

この治療法は平成18年9月13日から健康保険の適応が認められましたが、1年に6回程度以上再発を繰り返す症例に限りますので、すべての患者様に適応できる治療方法ではありませんが、再発を繰り返してお悩みになっている方には、「こんな方法がある」ことを知っておくだけでも心の負担が軽くなるのではないかと思います。

 

また、日本の健康保険制度では1年間で中止して、その後経過観察をすることになっています。世界的にはこのような期限の制約を設けている国はありませんが、一方で1年間の性器ヘルペス再発抑制療法治療費は日本が世界で最も安く、自己負担は1日約200円、1ヶ月約6000円、1年で約7万円です。米国の3分の1から5分の1程度ですから、日本の制度は決して悪くないのかと思います。

1年間で十分なウイルス抑制が出来ないケースがありますから、1年間終了後、数ヶ月間経過観察をして再発を繰り返す場合には2回目以降の治療を行うこともできます。

 

心のケア~“not alone“ 一人で悩まないで

初感染時はもちろん、再発時においても積極的に抗ウイルス薬の内服を行い、再発の原因となる体の奥深くの病巣を治療するように心がけることで再発回数や無症候性排泄のリスクを減らすことが出来ます。また、1996年以降日本でも性器ヘルペス再発抑制療法が保険で出来るようになったため、自覚症状が軽くても、再発に悩んでいらっしゃる患者様にはこの治療方法をお勧めいたします。

積極的なウイルス感染症対策が出来るようになったために、性器ヘルペスはコントロールできる病気になったのです。そのため当院では社会生活の制限をほとんどしていません。


性器ヘルペス再発抑制療法
図 生活指導

 

上図の動物のキャラクターは「一人で悩まないで」という気持ちをこめたグラクソスミスクライン社の“not aloneキャンペーン”に使われたものです。

海外ではから性器ヘルペス再発抑制療法が広く普及しており、米国では年間75万人(性器ヘルペス患者の約38%)が再発抑制療法を受けています。これに比べて日本では全ヘルペス患者のうち約70%の患者が外用薬で治療され、まだまだ性器ヘルペスを「皮膚病」として考える医者がほとんどで、性器ヘルペス再発抑制療法に導入されたのはたったの約6%にとどまっています。当院では医師向け、一般向けの講演会を通じて性器ヘルペス再発抑制療法をはじめ、患者様のメンタルダメージにも配慮した治療哲学の普及に努力しております。

待ち伏せ療法は禁物

症状が出そうなときにあらかじめ薬を飲んでおく「待ち伏せ療法」は、皮膚症状を押さえるだけなので神経のウイルス感染症の治療としては不十分です。自覚症状を緩和するだけで、無症候性排泄を予防できませんから、かえってウイルスを広めてしまう元凶です。また、中途半端な治療で薬が効かないウイルス(耐性化)が出来てしまう恐れもあります。健康保険でも待ち伏せ療法を認めていませんから、症状が治まったとでも出された薬は最後まできちんと飲みきるようにして、次の再発のためにとっておくようなことをしないでください。

 

性器ヘルペス再発抑制療法の患者マネジメント(専門医向け)はこちら

再発抑制療法の普及目的で主に皮膚科、泌尿器科、産婦人科,皮膚科の専門医の日常のご診療に役立つように書きましたが、現在再発抑制療法を受けていらっしゃる患者様にもお読みいただきたい記事です。