ベセルナクリームの患者マネジメント

投稿日:2012年1月8日|カテゴリ:専門医向け記事

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この記事はおもに皮膚科、泌尿器科、産婦人科の専門医がベセルナクリームをより安全に、より効果的に使っていただくために、著者が担当した2011年日本性感染症学会関東甲信越支部総会ならびに皮膚科フォーラムにおける学術講演「尖圭コンジローマ治療の今昔」の内容から抜粋して書き直したものです。医療機関様で日常診療にお役立ていただけると幸いです。

著者の許可なく書籍、インターネット、論文ほかどのようなメディアであっても記事や画像の一部または全部を転載、引用、公開を禁止いたします。

 


● ベセルナクリームによる免疫賦活作用

ベセルナクリームの作用機序:ベセルナクリームは尖圭コンジローマの表面に塗ることで、有効成分のイミキモドが皮膚内を遊走している免疫応答細胞(マクロファージ)のトールライクレセプター7(TLR7)に接合して免疫の扉を開きます。マクロファージがインターフェロンαやインターロイキン12といった内因性液性免疫(ケモメディエイター)を誘発し、インターロイキンによってさらにナチュラルキラー(NK)細胞やキラーT細胞といった細胞性免疫が誘発されてウイルス感染細胞を攻撃します。

2007年12月から日本でもベセルナクリームが認可され臨床に使えるようになりました。米国の3Mが開発し、世界的に実績のある薬です。海外では尖圭コンジローマのほかに皮膚がんや日光角化症のような前がん状態にも使用されていて、非常に高い評価を受けています。日本では持田製薬株式会社が販売をしています。

 

尖圭コンジローマ 新宿さくらクリニック

図 ベセルナクリームの作用機序 


● ベセルナクリームの症例選択基準

ベセルナクリームの長所はウイルス免疫を賦活化するので再発率が低いことで、欠点は免疫が立ち上がるまである程度時間がかかることです。それを考慮して著者はある程度の選択基準を設けています。ただし、できるだけ患者様の希望を受け入れるようにしていますので、絶対的な基準ではありません。

ベセルナクリームを勧める症例

①   根治を望むひと

②   パートナーに移すことを心配するひと

③   コンジローマの数が多い、大きい症例(ただしそら豆大以上の巨大腫瘍には向かない)

④   コケ状、白斑状、散在性の尖圭コンジローマ

⑤   再発を繰り返す症例

⑥   ウイルスが広く感染していそうな症例

 

外科的治療を進める症例

①  早く結果を出したいひと

②  病変の数が少ない、小さい症例

③  大きくても孤立性な症例

④  ベセルナクリーム無効例

⑤  ウイルスの分布が限局していそうな症例

 


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 図 ベセルナクリームの症例選択基準

 

● 外用指導のポイント


指導箋や効能書に書かれている外用指導の方法は、3M社の特許なので、英文を翻訳しただけのものです。そのままでは日本人のライフスタイルに合わないため、当初は思ったような治療効果が得られないばかりか、重症な有害事象を引き起こしてしまうことがありました。そこで安全に、短期間で治療効果を出すために著者が独自に日本人のライフスタイルに合わせた外用指導と患者マネジメントを考案しました。これにより有害事象が減って治療期間を短縮させることができたほか、再発率を60%、脱落を40%減らすことができました。

①   温度管理:この薬は4℃~18℃の間で保管します。この範囲なら常温でも構いませんができれば冷蔵庫の野菜室で保管します。

②   塗布は週3回:月水金か、火木土のいずれかのスケジュールをできるだけ最後まで守ってもらいます。

③   1包使い切り:いつも封開けのフレッシュな薬を使います。余っても捨ててください。ただし女性の生理時には頻繁に塗りなおすことがあるので、余りをジッパー付のビニール袋に入れて使用してください。

④   (重要)広めに塗る:ウイルスはイボ周辺に分布していますから、イボよりも一回り広く塗ります。いくつかいぼが集まっている場所はエリア全体に塗ります。

⑤   塗りこまない:ベセルナクリームは必要十分量だけを使い、塗りこまないようにします。

⑥   (最重要)接触時間を医師が管理する: 薬剤が患部に接触している長さによって治療効果がある程度調節できますから、効果が出始めるまでは10時間、イボが縮み始めrてきたり、塗布面が軽く発赤し始めてきたら順次塗布時間を短縮するよう、医師が指示します。

⑦   (最重要)塗布時間を患者のライフスタイルに合わせて設定する:夜塗って朝洗い落とす場合は、落とし忘れが多いので重大な有害事象が起こるケースがありますから、十分に注意してください。基本的には洗い落とす時間からさかのぼって10時間前に塗布します。つまり、夜10時に入浴する人であれば昼の12時に塗布してもらいます。女性で生理の時は夜間塗って朝洗浄することをお勧めします。この時接触時間が短くならないように患者様と十分に相談して塗布時間を決めてください。

⑧   2週間おきに来院:この薬は塗布面の変化を観察して医師が適切にアドバイスしないと実力を発揮できません。特に疣贅消失の判定は専門医でも難しいことがあるので患者任せにしてはいけません。

⑨   (重要)疣贅消失後も塗布を続ける:見た目に疣贅が消えたと思ってもウイルスが消えるまでは約8週間以上治療することをお勧めします。中には治療1週間で疣贅消失することもありますが、早くイボが消える症例ほど再発率が高いので、最低でも4週間は治療を続けてください。

⑩   (重要)早めの休薬と早めの再開:塗布面に発赤や皮膚びらんを生じたときはできるだけ早めに休薬をして、ひどい有害事象を避けます。そうすることで皮膚の回復も早いので、速やかに治療が再開できます。休薬期間の目安は2日から1週間以内として、再開後は接触時間を短縮するように指示します。

 

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図 ベセルナクリームの外用指導ポイント

 

● ベセルナクリームの治療効果

2007年12月から2008年9月までの期間にベセルナクリームを使用した尖圭コンジローマの新規患者176例の治療成績を下記の表にまとめました。疣贅体積が3分の1以下に縮小したのは149例85%、完全消失したのは103例59%でした。完全消失は男性54%に比べて女性79%、再発率は男性20% 女性13%と、女性のほうが治療成績が良い傾向にありました。その原因として平均年齢が男性よりも女性が8歳ほど若く、皮膚の性状も薬品を吸収しやすい条件が有利であることが考えられました。治療期間は3分の1縮小まで約4週間、完全消失まで約8週間を要しました。

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図 ベセルナクリームの臨床効果

 

● 治療効果のパターンと留意点


ベセルナクリームの治療効果の現れ方には大別して3種類があります。それぞれの特徴を理解して、症状を予測して患者指導することで有害事象を最小限に食い止めることが出来ますので、これらのパターンを知っておくことは臨床上非常に重要です。

 

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図 ベセルナクリームの治療効果(画像)

 ① 自然にイボが消えるパターン 「風船がしぼむような」イメージで、特に強い炎症反応もおこらずに、いつの間にかイボが消えている。若干時間がかかる傾向があるが、このようにして消失した尖圭コンジローマは再発しにくい、理想的なパターン。

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図 ベセルナクリームの有害事象

② 強い炎症反応とともに一気にイボが崩れるパターン。薬剤の接触時間が長過ぎるときにおこりやすい。有害事象の一つといえるが、炎症は効果の現れであって副作用ではない。ひどい炎症を起こさないように、2週間おきに通院させて、医師がしっかりと接触時間の指示をすることでかなり防げる。また、長期間(1週間以上)休薬するとびらん面にウイルスが播種されるので、かえって病巣が拡大する危険がある。出来るだけ早めに休薬をして早めに(1週間以内に)治療を再開する。その際接触時間を短縮するなどの注意をしてそれ以上ひどい炎症反応を起こさないように注意する。

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図 鎧纏化(画像)

③ 鎧纏化パターン。 比較的大きな疣贅におこりがちで、ベセルナ塗布によって疣贅が変性して変色膨張する。一部は崩壊するが、むしろ疣贅体積が大きくなってあたかも悪化したように見える。このようなタイプを著者は疣贅が鎧を身に纏ったと例えて「鎧纏化」と呼んでいる。一度鎧纏化してしまうとそれ以上の治療が進まないことが多く、下記のコンビネーション治療が必要になる場合もある。

 

● コンビネーション治療1 液体窒素


ベセルナクリームは今までにない作用機序を有していて、非常に優れた薬剤ですが、万能ではありません。患者様は治療期間が長くなると不安になってきたり、転医してしまいます。ベセルナクリーム使用時には必ず最低でも2〜3ヶ月はかかること、治療効果が出るのには平均で4週間かかることをお話しください。ベセルナクリームを8〜12週間ぐらい使ってもあまり治療効果が現れない場合は液体窒素や外科的切除の併用をすることもあります。ベセルナクリームで免疫力を上げてあるので、液体窒素が非常によく効きますので、それまでのベセルナクリームによる治療が決して無駄ではなかったはずです。

 

● コンビネーション治療2 鎧纏化対策


鎧纏化した場合、疣贅表面を電気メスのループ電極で薄く切除します。この際、疣贅を取りきることが目的ではないので角質化した疣贅表面だけを切除します。数日で疣贅が盛り上がってきますが、再生した組織はみずみずしく、冷凍凝固やベセルナクリームによく反応するようになります。

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図 コンビネーション治療 


● 疣贅消失の判断は慎重に

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図 消失判断と遺残画像

上図はベセルナクリーム12週使用後の皮膚病変です。隆起性病変はみられず、白斑状態になっています。写真を拡大していますので誰でも見分けがつきますが、実際の臨床では見逃してしまいがちな遺残病変です。疣贅の消失か遺残かを判断するためにはダーモスコプや触診が有効です。

ダーモスコプでは、周辺との毛細血管のつながりや、疣贅表面の顆粒状形態、コイル状血管等を参考に判断します。著者はこのようにすることで再発率を60%減らすことが出来ました。

 

● 患者マネジメントのまとめ

この章で述べてきたことを下記にまとめました。どれも非常に重要なことですので、ぜひとも日常診療にお役立てください

 

図 患者マネジメントまとめ